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作品鑑賞
この作品は、おそらくヌビアのアブシンベル大神殿を題材にした、岩に彫られた壮大な古代神殿の正面像を描いています。構図の中心には巨大な着座するファラオ像があり、その厳かな表情と精緻な冠飾りは威厳を放っています。像の間には太陽円盤の冠を戴く立像がそびえ、神聖かつ王権の象徴として存在感を示しています。巨大な石像の規模を際立たせるためか、鮮やかな服を着た小さな人物が点在し、スケールの大きさを強調しています。柔らかな線描と温かみのあるアースカラーのパレットによる淡い彩色が、時を超えた荘厳さと静けさを醸し出しており、岩の影が石の質感や歴史の重みを感じさせます。
技術的には建築の正確さを繊細な筆致と組み合わせ、石の風化や砂漠の乾燥感を繊細に表現。19世紀のエジプト学ブームと発見へのロマンを背景に、考古学的事実と感情豊かな壮麗さを見事に融合させた作品です。鑑賞者はこの静謐な空間に入り込み、過去の儀式や王朝の威光を想像させられます。