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作品鑑賞
この繊細な墨と水彩の作品は、春の草原を静かに馬で進む旅人の一瞬をとらえています。画面右上にはしなやかに垂れる柳の枝が描かれ、その瑞々しい緑の葉が生き生きと息づいています。伝統的な衣装と帽子を身に付けた人物は、静かな思索を感じさせ、穏やかな草地の上に馬をゆったりと進ませています。左上に配された書の文字は構図に絶妙なバランスをもたらし、柳の揺れと馬の安定した動きと調和しています。
穏やかな緑と控えめなアーストーンの色使いは、生き生きとした春の息吹を表現し、筆遣いは人物や馬の細部に確かな線を施す一方で、植物の部分は自由で流れるような筆致で対比を成しています。唐代の詩人・劉長卿の送別の詩が書に添えられており、作品に歴史的な深みと感傷を加えています。時の流れや別れの情緒が静かに響き、草のざわめきや風のそよぎが感じられる、自然と人間の普遍的なつながりを描いた作品です。