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作品鑑賞
この作品は、ナイル川のヌビアに浮かぶフィラエ島の荘厳な姿をとらえている。淡く透明感のある水彩表現が、暖かな砂地と涼しげな川の色彩を繊細に包み込み、静謐でありながら壮大な空気感を生み出している。前景に配された遺跡とヤシの木々が画面の構図を引き締め、視線を島の壮大な寺院群へと導いている。遠くの山々が霞んでゆく様子や、水面に映る光の反射が、静かな敬意と神秘的な歴史の囁きを感じさせる。
技術的には、石造建築の細部を繊細に描きつつ、空や水の描写は柔らかくゆったりと描くことで、古代の永続性と日没の儚さを対比させている。単なる風景画にとどまらず、時代を超え文化の継続を想起させる感情的な旅へと誘い、19世紀西洋のエジプト学への憧れや古代文明の輝きを記録しようとする精神を映し出している。