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筑波沼の朝

作品鑑賞

早朝の穏やかな光に包まれたこの風景は、緑豊かな山々に囲まれた静かな湖と、その背後に穏やかに聳える遠山を描き出す。透き通るような青空と白い雲が対比を成し、水面は澄んだ青と緑の繊細なグラデーションで表現されている。湖上には小舟に乗る二人の人物が描かれ、時間が止まったかのような静寂な一瞬を感じさせる。構図は密集した森林のテクスチャーと滑らかな水面、広がる空のバランスが絶妙であり、静謐な調和を生み出している。木版画特有の技術が光り、自然の細部が緻密に描かれており、色の重なりが奥行きと大気感を醸し出す。雲の描写はそよ風を感じさせ、穏やかながらも動きを内包した情景を演出している。

1933年に制作されたこの作品は、浮世絵の伝統を新しい感覚と西洋的写実主義で蘇らせた新版画運動に属する。近代化の波が押し寄せる時代にあって、日本の自然美へ懐かしさと敬意を込めた情緒を湛えている。冷静な緑と青を基調とした控えめな色調が瞑想的な感覚を高め、見る者を静かな自然との一体感へと誘う。全体として、田園風景の永遠性と自然と人間の織りなす繊細な調和を表現し、柔らかく精密な筆致が強く印象を残す。

筑波沼の朝

川瀬 巴水

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制作年:

1933

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サイズ:

4413 × 6477 px

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