ギャラリーに戻る

作品鑑賞
この白黒の緻密なエングレービングは、岩の丘の頂に巨大な方舟が静かに佇み、その下方には混沌とした人間や動物の姿が絡み合い、滝のように流れる水と共に描かれています。中央には一羽の鳩が飛び立ち、希望の象徴として画面の焦点を引きつけています。建築的な精緻な線描が方舟の重厚感を際立たせ、明暗の強い対比がドラマティックな緊張感を生み出しています。
構図は視線を下から上へと導き、絶望の中にあっても救いの光を示す鳩の飛翔に向かわせます。細やかなクロスハッチング技法によるテクスチャーは風景と人物のディテールを豊かに表現し、19世紀の宗教的主題をロマン主義と写実主義の要素で巧みに描き出しています。感情的には深い喪失感と、わずかな希望の息吹が共存する、非常に詩的な作品です。