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作品鑑賞
この穏やかな木版画は、熊本城の堀と御幸橋の夕暮れの静けさを見事にとらえています。柔らかな青や緑のグラデーションに、空に漂う淡いピンク色が加わり、心落ち着く反射的なムードを醸し出しています。構図は堀の曲線を辿るように視線を誘い、鏡のように静かな水面に石垣や緑豊かな木々が映り込み、自然と人工物の調和が美しく表現されています。石垣の繊細な質感と葉の細部が滑らかな水面と対比的で、浮世絵の伝統に則ったリアリズムと技術の高さが感じられます。
じっくり見ると、葉ずれの音や初夏の涼やかな夕の空気が聞こえてくるようです。落ち着いた色彩と丁寧な線描が、静かに時を止めたこの瞬間の美しさを鑑賞者に深く伝えています。歴史的にも、この作品は20世紀初頭の日本の伝統的浮世絵の再興を示すものであり、自然・歴史・人の細工の調和が今なお強く共感を呼んでいます。