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作品鑑賞
この静謐な木版画は、夜空の下に佇む伝統的な日本の城の端正な姿を写し出しています。抑えられた青緑色のパレットによって、涼やかで穏やかな空気が醸し出され、瓦屋根や壁に柔らかな影が落ちる様子は実に美しい。構図はバランスがよく、連なる屋根の曲線が目線を空へと導き、雲の多い夜空が静かな期待感を漂わせています。石垣の質感や周囲の樹木の繊細な描写が画面に奥行きを持たせ、まるで歴史の息吹が感じられる夜の静けさを体感させてくれます。
1933年に制作されたこの作品は、伝統的な木版画技術の復興期にあたり、古典への敬意と作者の繊細な感性の融合を示しています。光と影の織り成す豊かな質感と構図の妙が優れた技術を物語り、日本の建築美の静謐さを永遠に讃える一作となっています。