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作品鑑賞
穏やかな青空が柔らかく広がり、夕方の温かな光に照らされた伝統的な日本の寺院が、美しい緑の木々に囲まれた静けさを写し出しています。この木造建築は、見事な茅葺きの屋根と細やかな木彫りの装飾が印象的で、光と影のコントラストが建物の立体感を際立たせています。赤みがかった屋根瓦、瑞々しい緑、遠くの空にわずかに漂う紫色が絶妙に配され、版画に穏やかながらも生き生きとした空気を与えています。
構図は寺院の上部を巧みに切り取り、屋根の流麗な曲線と柱の力強さを際立たせています。わずかな人影がスケール感を添え、空を舞う鳥の姿が静謐な景色に一瞬の動きを加えています。川瀬巴水の繊細な技法と大気の層を表現したこの作品は、新版画運動の中で伝統的な浮世絵を近代的な自然主義と詩情で甦らせた一例と言えるでしょう。静かな感動とともに、自然と建築、人の調和を感じさせる作品です。