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作品鑑賞
この作品は、肥後県栃の木温泉の夜を描いた静謐でありながらどこか物悲しい情景を見事に捉えています。伝統的な建物の屋根が斜めに重なり、窓からは温かい明かりが漏れ、深い藍色から柔らかな青のグラデーションが夜の冷たさと雨のしっとりとした雰囲気を繊細に表現しています。背景にはシルエットとなった樹木や山並みがぼんやりと浮かび上がり、わずかに残る月明かりが全体に神秘的な調和をもたらしています。
降りしきる雨は細かい縦線で表され、そのリズムが静けさに緩やかな動きを与えています。光と影の丁寧な配分と、控えめながらも緻密な筆致がこの浮世絵に深い感情をもたらし、見る者に雨の音や濡れた大地の匂いまで感じさせるほどの臨場感を醸し出しています。