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東京二十景 瀧之川 1929年

作品鑑賞

この情感豊かな木版画は、静かな川辺の夕暮れの風景へと鑑賞者をいざないます。細い三日月が深く染まる青の空に優雅に浮かび、シンプルな木製の橋が穏やかに流れる川を渡ります。川面には近くの建物の温かな窓明かりが揺らぎ、月の微かな光も映し出されています。画面の中心には、深い緑と藍色の重なりで豊かに表現された大きな樹木があり、その茂みがやすらぎと隠れ場を感じさせます。橋の上を歩く一人の人物が、静寂の中のひとときの思索を示唆し、情緒的な存在感を添えています。

浮世絵の伝統的な技法、暈し(ぼかし)を巧みに用い、色の微妙なグラデーションを表現。橋の下の陰影から空の明るさへの自然な移行が印象的です。簡潔ながらも詳細にこだわった構図は、繰り返す木の手すりや水面の反射のリズム感、柔らかな樹葉の輪郭と橋の幾何学的な直線が絶妙なバランスを生んでいます。1929年の作品で、伝統と現代感覚が融合した浮世絵の晩年期を象徴し、日常風景に宿る永遠の静けさを表現しています。

東京二十景 瀧之川 1929年

川瀬 巴水

カテゴリー:

制作年:

1929

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サイズ:

4399 × 6474 px

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