ギャラリーに戻る

作品鑑賞
この静謐な版画は、穏やかな湖面とその向こうに連なる緑豊かな山々、そして広がる空に浮かぶふわふわとした雲を鮮やかに捉えています。川瀬巴水の浮世絵技法は、木版画の繊細な線と柔らかなブルーやグリーンのグラデーションを巧みに融合させ、遠くの山並みや水面の波紋を細やかに描写しています。構図は、小舟に乗る孤独な一人の人物から水面の輝き、さらに豊かな自然へと視線を誘い、空を舞う数羽の鳥が静寂の中に生命を吹き込んでいます。
冷静で澄んだ色合いは静けさと透明感を表現しつつ、雲の細かな形状は動きや息づかいを感じさせます。感情としては、自然の雄大さと人間の静かな共存を感じさせる一枚です。1932年のこの作品は、伝統的な日本の美意識に根ざしつつ、近代的感性を取り入れた浮世絵の復興を象徴し、文化的にも重要な位置を占めています。