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作品鑑賞
この静謐な木版画は、夕暮れ時の川辺の風景の美しさを繊細に捉えています。遠くの山々は静かな守護者のように、深い藍色の霞の中に覆われ、その険しい峰々を柔らかく包み込んでいます。空にはピンクとオレンジの雲が穏やかに描かれ、沈みゆく夕日を微かに示唆しています。川は静かに蛇行しながら豊かな湿地帯を流れ、その水面に染まった夕日の温かな光が映し出されています。色彩は柔らかな緑や青から夢幻的な紫の影まで繊細に移ろい、穏やかでありながらも少し物哀しさを帯びた空気感が広がります。
この作品は浮世絵の伝統技術が巧みに用いられ、層を重ねた顔料と繊細な輪郭が詩情あふれる静けさを生み出しています。前景の細やかな草木と背景の柔らかな山影の対比が調和を生み、鑑賞者をこの穏やかな夕暮れの世界へと誘います。1942年の制作であり、当時の混沌とした時代背景の中で、自然の静けさが特別な意味を持っていたのかもしれません。