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作品鑑賞
この作品は、雪が静かに降り積もる川沿いの道を描いた冬の静謐な情景を見事に捉えています。雪に覆われた木造の建物が連なり、その白と落ち着いた茶色、灰色の色調が調和し、凛とした冷たい空気感を伝えます。黄色い和傘をさした一人の男性と、その後ろを歩く小さな犬が寒さの中の温かみを添えています。通りに積もった雪の細かい粒や石垣の質感が木版画ならではの丁寧な技法で表現されており、静かな水面への映り込みも味わい深い。
1935年に制作されたこの作品は、浮世絵の伝統を受け継ぎつつも、日常の何気ない一場面に詩情を込めています。色調は抑えめでありながら、黄色の傘が視覚と感情にほのかなアクセントを加え、孤独でありながらも生きる力を感じさせる一枚です。冬の冷たい空気のなかに、人々の静かな暮らしと自然の一体感が静かに響き合っています。