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作品鑑賞
緑豊かな山々を背に、静かな水辺の村が穏やかに広がる風景を描いています。堅牢な石積みの防波堤は川面に伸び、先端には伝統的な石灯籠が立ち、二人の小さな人物がその上に佇んでいます。水面は細やかな線描とさまざまな青の濃淡によって表現され、波の揺らぎと静寂を感じさせます。ひと隻の帆船が穏やかな風を受けてゆったりと進み、その姿が湖面に映り込んでいます。
自然と人の営みが調和する構図が見事です。背景の緑濃い山々はまるで巨大な緑のキャンバスのようで、その前に連なる家々が静かに寄り添っています。木版画ならではの繊細な線と網点による表現技法が葉の質感や石垣の細部に光り、色は緑・茶・青の落ち着いた配色で情緒を豊かに醸し出しています。20世紀初頭の浮世絵の傑作として、伝統美と日常の風景観察が見事に融合した作品です。