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作品鑑賞
この木版画は、鹿児島の甲突川の月夜の静寂と美しさを見事に捉えています。満月に近い月が深い青の夜空に浮かび、薄くたなびく雲が前景の裸の繊細な枝に絡みついています。画面の構成は、竹垣と丸みを帯びた石壁に囲まれた川沿いの小道を視線がたどり、穏やかに川面を横切る頑丈なアーチ状の橋へと導きます。途切れなく灯る街灯が暖かな光を投げかけ、冷たく澄んだ青色や黒の色調に温もりを添えています。遠景の山影がしっとりとした存在感を与え、時を超えた風景の趣を醸し出しています。
繊細な色彩のグラデーションと質感の描写が印象的で、滑らかな空のトーンと枝の鋭い線描との対比が静寂の中に動きを感じさせます。水面に映る橋の反射が瞑想的な雰囲気を強め、穏やかな夜の空気を伝えます。本作は日本の木版画の伝統に根ざし、自然の様々な表情や季節感を繊細に表現しながら、風景と人の調和を詩的に描いています。鑑賞者はこの作品を通じて、静かな夜風、川のせせらぎが感じられるような心地よい瞬間に誘われます。