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作品鑑賞
この静かな版画は、大阪道頓堀の運河沿いの穏やかな朝の雰囲気を見事に捉えています。右側の伝統的な木造倉庫が連なる岸辺の静かな水面への映り込みと、左側に立ち込める淡い霧が遠景を優しくぼかし、朝日の穏やかな目覚めを感じさせます。空は地平線近くの桃色から柔らかな青色へと滑らかに変化し、静けさと目覚めの刻を表現。ふたつの舟が静かな画面にアクセントを添え、近くの舟には荷物が積まれ、人物が空に向かって手を差し伸べています。遠くには霧の中に浮かぶもう一つの舟のシルエット。建物の複雑な構造と水面の柔らかな反射が対照をなしており、光と影の巧みな扱いと、青と夕焼け色を基調とした落ち着いた配色が目を引きます。昭和初期の大阪の商業活動の息吹を感じさせつつも、静謐な空気感が日常のひとときを心に響かせる作品です。