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作品鑑賞
月明かりにやわらかく包まれたこの木版画は、遠くの山々が夜霧に溶け込む静かな湖畔の情景を描いています。広がる湖面の静けさと、岸辺に静かに停泊する舟の繊細なリズムが見事に調和されている構図です。青や抑えた緑の繊細な階調が、光と影のやさしい交流を生み出し、静寂の中に自然の夜の美しさへの敬意が感じられます。左側の細い書き文字が、この風景に場所と時間の詩情を添えています。
この作品は20世紀初頭の日本の風景版画に見られる技巧の粋であり、特に夕暮れの空や水面の反射の色彩の微妙な変化が際立っています。ほのかな幻想的な雰囲気は鑑賞者をその場に誘い込み、涼しい夜風や岸に寄せる波音を想像させます。伝統美と現代感覚を融合し、刹那的な自然の美を捉えた新版画運動の代表作として光輝いています。