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作品鑑賞
この静謐で魅力的な作品は、紫色と白のアヤメが一面に咲き誇る庭園の風景を描いています。花々は滑らかに曲線を描き、見る者をまるで散策へと誘うかのよう。深い緑の樹木が背景を包み込み、その葉の繊細な重なりは自然の息吹と静けさを感じさせます。伝統的な衣装をまとった人々が点在し、場面に生活感とスケール感をもたらしながら、穏やかな時間の流れを捉えています。
巧みな木版画技術で、鮮明な輪郭と平坦ながら調和のとれた色彩で初夏の柔らかな空気を表現。空は穏やかな青のグラデーションで、二羽の鳥が軽やかに舞い画面に動きを添えています。自然の静けさと人の営みが心地良く溶け合い、日本の季節美を讃える文化の一端を映し出しています。20世紀前半の新版画を代表する作風で、西洋の影響を取り入れつつ伝統美を守った普遍的な風景画です。