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作品鑑賞
温かみのある赤を基調とした部屋が舞台の、この親密な室内シーンは、鮮やかでありながらも落ち着いた空気感を醸し出しています。前景には赤いテーブルクロスをかけた丸テーブルが配置され、その上には特徴的なランプと小物が置かれ、日常の暮らしの息吹を感じさせます。奥には黒い暖炉が空間の中心を占め、その上の鏡には見知らぬ空間が映り込むほか、青い花瓶に生けられた花が左右に配され、バランスと優雅さを添えています。
左手の暗がりの扉口では、二人の人物が密やかに抱擁し、その黒いシルエットは部屋の赤と対照をなしています。幾何学的に整理された構図と光と影の対比によって深みが生まれ、静かな情感と空間の緊張感が感じられます。輪郭を強調しつつ表現を簡素化した手法は、モダニズムの傾向を示し、19世紀末のヨーロッパの私的な空間とそこに漂う感情の機微を想起させます。