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作品鑑賞
この静かな浮世絵作品は、穏やかな湖畔の風景を捉えており、ゆったりと浮かぶ一艘の木製の船が静かに水面に繋がれている。構図は前景の動かざる船から雪を頂いた雄大な富士山へと視線を自然に導く。左手には緑豊かな樹々が寄り添い、小さな小屋と桟橋が人の営みを感じさせつつ、全体のバランスを整えている。柔らかなグレーや青、茶色を基調とした色彩が穏やかで少し霞んだ早朝か夕暮れの雰囲気を醸し出し、淡く繊細な明暗の変化によって自然と人の調和が静謐に表現されている。
伝統的な木版画技術を活かしつつ光と影の繊細な描写が作品全体に静謐なムードを与えている。水面に映るわずかな波紋と反射が幻想的な感覚を加え、富士山という日本文化の象徴が画面の中心を力強く支える。1937年制作のこの作品は、日本の象徴的な風景への敬意を示すとともに、新版画運動における浮世絵伝統の現代的な再興を感じさせる。