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作品鑑賞
この作品は、秋の雨が降った後の京都の南禅寺の静けさを見事に捉えています。主題は堂々とした木造の山門で、周囲のモミジは鮮やかな紅葉のオレンジや穏やかな緑、少し色褪せた黄色が美しく調和し、建物の厳かな雰囲気と対比を成しています。細密な線画と繊細な色のグラデーションは浮世絵版画技術の熟練を感じさせ、瓦屋根の細部や雨上がりの地面にできた水たまりの映り込みまで見事に再現されています。構図は堅固な建物と流動的な水面、その間に揺れる葉のバランスが絶妙です。
この作品は静寂で敬虔な感情を呼び起こします。雨に濡れ反射する地面が上部の構造と色彩を柔らかく映し出し、自然の儚い美しさへの静かな共感を感じさせます。20世紀中期に制作された本作は伝統的な日本の木版画技術を継承しつつ、現代的な空気感と場所性をも感じさせるものです。控えめな色調と精緻な技術で寺の精神性を讃え、自然と人間の創造物が調和するひとときを見事に表現しています。