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作品鑑賞
この作品は1932年の京都、清水寺の冬景色を静謐に捉えています。雪に覆われた伽藍の屋根や周囲の景色に繊細な雪の粒が舞い落ち、朱と藍の伝統衣装に身を包んだ二人の人物がわら傘を差して木造の舞台に佇む様子が描かれています。静寂と冷たさの中に人の温もりがそっと感じられる美しい一瞬です。
川瀬巴水の新版画技法による柔らかな色彩のグラデーションや、精緻な彫りによる輪郭の明確さが特徴です。構図は屋根の層次と五重塔が画面に安定感と奥行きを与え、しんとした雪景色の中に調和と沈思の感覚を生み出しています。昭和初期に日本の伝統風景を新たな表現で保存しようとした芸術的意義も深い作品です。