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作品鑑賞
この絵画は、素朴な木製のテーブルの上に並べられたシンプルながらも心惹かれる静物を捉えています。焦点は、鮮やかな赤やオレンジの色調で豊かに描かれた完熟したトマトの山。皿の周りには白い布がかけられ、自然なドレープが美しく広がり、その上に散らばるトマトとともに生き生きとした雰囲気を作り出しています。近くには錫製のタンカードが置かれ、冷たい金属の質感が温かいトマトの色彩と対比をなしています。背景はダイナミックな筆致で描かれ、深みと静かな神秘性を作品にもたらしています。
後期印象派らしい力強く繊細な筆使いで、光と影のコントラストが物体に立体感を与えています。熱を帯びた赤から落ち着いた青緑までの色彩の重なりが調和しつつも鮮烈なパレットを生み出し、視覚だけでなく聴覚や触覚までも刺激するかのようです。1883年に描かれたこの静物画は、日常の物を新鮮な視点で生命感豊かに表現し、単なる平凡さを詩的な静寂へと昇華させた重要な作品です。