ギャラリーに戻る

作品鑑賞
この絵画は、聖マルコの埠頭にそびえるライオンの柱を中心に、ヴェネツィアの壮麗な風景を鮮やかに捉えています。画面左には重厚なドージェ宮殿がそびえ、右側には翼を持つ聖マルコの象徴であるライオンが頂上に立つ柱が高く伸びています。垂直の柱が青空へと視線を引き上げる一方で、下の賑やかな人々の群れが生命感を注ぎ込んでいます。赤みや黄土色の点在する衣装が前景と人物たちに彩りを与え、暖かい光が歴史的建築に重なり合って、午後の穏やかな時間帯を思わせます。
画家は細かいながらも自由な筆致で石の質感やゴシック様式の細工を描き出し、屋外の光を巧みに表現しています。旗がなびき、飛ぶ鳩の群れ、当時の服装をまとった行き交う人々の躍動感が、ヴェネツィアの19世紀の魅力と活気を感じさせ、観る者をその場に引き込むようです。歴史と日常が交差するこの風景は、深い情緒と時代の記憶を今に伝えています。