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作品鑑賞
この木版画は、古い石壁と土塀に囲まれた細い道を静かに歩く二人の人物を中心に描いています。背景には大きく深緑から黄緑へとグラデーションを見せる木々が立ち並び、鮮やかな青空と白い雲がそれを引き立てています。傘をさして歩く二人の人影は、赤いリュックサックが印象的で、控えめな色調の中で際立っています。木の葉の細部まで繊細に表現され、石垣や壁の質感も精緻に描き出されており、伝統的な浮世絵技術の巧みさが感じられます。
構図は自然の壮大さと人の存在を絶妙に調和させており、穏やかな風が葉を揺らし、土の道を踏む音までも聞こえてきそうな情景です。1920年代の金沢の静かな日常を切り取ったこの作品は、自然美と人間生活の融和を通じて日本版画の芸術的価値を示しています。