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作品鑑賞
この情感豊かな浮世絵版画は、月明かりに照らされた静かな海岸の風景を巧みに捉えています。岩のごつごつした前景を通して視線が誘導され、小さな水たまりのそばにしゃがむ一人の人物が自然との親密な時間を過ごしています。岩の鋭い質感と、水面に映る月の柔らかな光が対比を成し、粗さと静けさの調和を生み出しています。遠くには緑の島のシルエットを背景に帆船が静かに漂い、静謐で孤独な雰囲気をもたらします。
川瀬巴水の特徴ともいえる深い青と緑のグラデーションが夜の海の静けさと神秘性を表現。空は濃紺から淡い青へと繊細に変化し、黄昏や明け方の時間帯を感じさせます。この版画は伝統的な木版画技術と近代的感性の融合を目指した新版画運動の一端を示し、自然の美しさと日常の静寂を鑑賞者に優しく語りかけています。