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作品鑑賞
この穏やかな風景画は、20世紀初頭の北海道洞爺湖の静かな美しさを見事に捉えています。前景には細長い木々が黄金色の葉をまとい、広大で静かな湖の前に立っています。湖は遠くまで広がり、空との境界を形成しています。空は地平線近くの柔らかなターコイズから、徐々に深い青へと移り変わり、淡いピンクの雲が朝焼けか夕暮れの静寂な時刻を感じさせ、しっとりとした物思いにふけるような雰囲気を醸し出しています。遠方の丸みを帯びた山々は抑えた緑や紫の色調で描かれ、日が沈む穏やかな光を映し出しています。
この作品は、繊細で清潔な線と微妙な色のグラデーションを巧みに用いた技法が特徴で、新版画運動による日本伝統の木版画技術と西洋的要素の融合が伺えます。構図はバランス良く、動的です。木の垂直線と湖や山の水平線が対比し、暖色の葉が湖や空の冷色と美しく調和しています。この心に響く版画は自然の美しさを称えるとともに、時間の儚さと景観の永続的な優雅さを感じさせる、静かな内省のひとときへと鑑賞者を誘います。