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作品鑑賞
この版画は、静かな雪の夜に包まれた小さな村の様子を生き生きと描いています。厚く積もった雪が道や屋根、電柱を覆い、静寂で穏やかな冬の世界を作り出しています。画面の構図は、曲がりくねった小路に視線を誘導し、その横を流れる小川の水面が夜空の青みを映しています。雪が降り続ける中、傘をさして歩く人物が一人、ひっそりとした人間の存在感を添え、孤独感と心地よい静けさが同居しています。
川瀬巴水は繊細な線描で建物を描き分け、全体の柔らかさを損なわずに細部を表現しています。色彩は灰色、青、黒の控えめなパレットに純白の雪が際立ち、落ち着きと静謐さを際立たせています。画面の垂直に伸びる電柱が視線を天空へ引き上げ、曲線の道と水路が動きを与え、深みを感じさせます。1920年に制作されたこの作品は、伝統的な浮世絵技術と近代的感覚が融合し、郷愁と新鮮さを同時に呼び覚ます名作です。