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作品鑑賞
淡く朧げな月光に照らされたこの浮世絵版画は、松江の河畔に佇む静寂な夕暮れの風景を見事に捉えている。伝統的な日本家屋が整然と並び、川面にはその姿が静かに映り込んでいる。小舟が穏やかな水面を滑る様子は、月の光に照らされた一つの窓の灯りと相まって、日常の静かな一瞬を物語っている。雲間から覗く月は、幻想的で幽玄な雰囲気を画面全体に漂わせ、観る者を静かな夜の世界へ誘う。
作者は巧みな木版画技法を駆使し、深い藍色や灰色の微妙なグラデーションで夜の静寂と水の反射を繊細に描写している。建物の細部にまで気を配りつつ、月光に照らされた風景の調和を表現。歴史的背景を感じさせるこの作品は、日本の伝統的な生活文化を映し出すとともに、朧月夜の幽玄な美しさを感覚的に伝えている。