ギャラリーに戻る

作品鑑賞
静かな夜の静寂に包まれたこの版画は、京都の寺院を見下ろす広がりのある黄昏の風景を描いています。精緻な建築の屋根や柱は、木版画の技法による繊細な表現で描かれており、木の質感や陰影の丁寧な階調が感じられます。視点は長い縁側を辿り、ひとりの男性が遠くの街明かりを眺める姿が印象的です。深い青の空には星が瞬き、画面全体の構図は広がる空間と細部のバランスを巧みに保ちながら、静謐で瞑想的な空気を醸し出しています。
色調は主に落ち着いた青やグレーの冷たい色味が支配的で、室内の温かな灯りや遠景の明滅する光がアクセントとなり、静けさとともに優しい哀愁を誘います。新版画運動の一翼を担ったこの作品は、西洋の光と影の表現技法を取り入れ、日本の伝統美をモダンに再解釈したものであり、京都の歴史的な寺院の夜景が刻々と移ろう瞬間を印象的に映し出しています。