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作品鑑賞
この版画は男鹿半島の龍ヶ島、夕暮れ時の荒々しい海岸線を見事に捉えています。火山岩の鋭い峰々が静かな海と重なり合い、柔らかなパステル調と鮮やかな色彩が融合し、夕陽の光が崖を赤く染めています。緩やかに広がる空には淡い雲が浮かび、自然の力強さと儚さが織りなす静謐でドラマティックな光景が広がります。
新版画の技法を用いたこの作品は、丁寧な彫刻と多層的な色の重ねにより、質感と深みを見事に表現。構図は、鋭い岩のシルエットと海や空の水平線とを巧みにバランスさせ、視線を岩から地平線へと導きます。静かなひと時を思わせる情感がありながらも、わずかな緊張感が空気に漂い、まるで風景そのものが夕刻の瞬間を息づいているかのようです。1920年代に作られたこの作品は、伝統的な日本の版画技術の新たな息吹を示し、自然美と時代の変遷を繋げた意義深いものです。