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作品鑑賞
断崖の縁で繰り広げられる一瞬を捉えたこの作品は、二人の人物が周囲の風景と静かに呼応しています。大地を思わせる温かなトーンに、予想外のピンクや柔らかな緑が溶け込み、質感豊かな崖の表面が生き生きと表現されています。左手の海は波が打ち寄せる様子が、青と白、そして影の濃淡でリズミカルに描かれ、陽光が差す静かな上空との対比が鮮やかです。
人物は自然の中に溶け込みつつも、物語性で目を引きます。六孔フラジョレットを奏でる者は風と海に旋律を放ち、その隣の人物はそれに耳を傾け、心の内を覗かせるよう。画面の流れは手前から崖沿いに視線を誘導し、遠くの地平線へと続きます。暖色系の柔らかな色彩と冷たく静かな海の青が織りなす感情のパレット。19世紀末の作で、ポスト印象派と象徴主義の狭間にある自然と心象風景が交差する作品です。